『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』

遅まきながらイオンシネマ徳島で公開されている『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』を観に行きました。タイトルである『A COMPLETE UNKNOWN』はディランの代表曲である「Like a Rolling Stone」の歌詞の一部。

1960年代初頭、後世に大きな影響を与えたニューヨークの音楽シーンを舞台に、19歳だったミネソタ出身の一人の無名ミュージシャン、ボブ・ディラン(ティモシー・シャラメ)が、フォーク・シンガーとしてコンサートホールやチャートの寵児となり、彼の歌と神秘性が世界的なセンセーションを巻き起こしつつ、1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルでの画期的なエレクトリック・ロックンロール・パフォーマンスで頂点を極めるまでを描く。

1965年当時のフォーク・シーンではアコースティックが当たり前でエレクトリックは邪道とする風潮が強く、フォーク・シンガーとして捉えられていたディランがバックバンドを従えてエレクトリック・ギターを使ったことで罵声を浴びせられます。確かにアコースティック・ギター一本で歌うディランのシンプルさはノーベル賞を受賞するほど重要な歌詞がストレートに伝わりやすいのかもしれません。ただミュージシャン側からすれば表現の幅を広げたいという思いから試行錯誤を繰り返していくでしょうからオーディエンスの期待から離れてしまうこともあるでしょう。映画の中では昔ながらのフォークソングの象徴としてアラン・ローマックス(アメリカ民謡の蒐集家)が、ディランの音楽を認めようとするピート・シーガー(アメリカン・フォークの重鎮)が新しい音楽への繋ぎ役として登場します。映画の中ではピート・シーガーが中心となって作られたテレビ番組である「レインボー・クエスト」に出演するディランも描かれています。

私はピート・シーガーのファンなので彼の妻であるトシや彼の自宅、彼の番組や彼が肩に下げているギターやバンジョーを入れる袋(トシが縫ったもの)まで丁寧に描かれていたことに感銘を受けました。映画の中で歌われるディランやジョーン・バエズ、ピート・シーガー、ジョニー・キャッシュらの歌は全て出演者自らが歌っています。60年代のアメリカン・フォーク・シーンの裏側を垣間見ることができる、とても面白い映画でした。

10年前の2015年4月6日(水)に渋谷道玄坂にあるオーチャードホールで開催された日本公演を聴きましたが、73歳(ディランは1941年5月生まれ)の老人の演奏とは思えないパフォーマンスを聴かせてくれました。


余裕を持って家を出たつもりが雨が降っていたからか思いの外時間がかかって劇場に着いたのは開演5分前でした。


家に帰ってから本棚を調べてみるとピート・シーガーが書いた「How To Play The 5-string Banjo」のオリジナルと日本語版が出てきました。

ちなみに私が持っているバンジョーはこちら